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2013年度
マンション再生協議会シンポジウム

「マンションの再生に係る専門家の育成」

平成25年7月10日(水)に東京都文京区「すまい・るホール」において、マンション再生協議会総会終了後、15時30分より協議会主催のシンポジウムが開催され約130名の参加がありました。
今回のシンポジウムでは、マンション再生において直面する課題整理を行える専門家を育成していくためにはどうすれば良いかを議論しました。シンポジウムの概要を紹介します。

コーディネーター

小林 重敬:本協議会会長・(公社)全国市街地再開発協会理事長・東京都市大学教授

パネリスト

戎 正晴:明治学院大学教授・弁護士・政策研究大学院大学客員教授
堀口 浩一:株式会社環境企画設計代表取締役
南 一誠:芝浦工業大学教授 学長補佐
宮城 秋治:宮城設計一級建築士事務所代表取締役・公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部メンテナンス部会部会長

掲載

市街地 再開発:2013.11 No.523・発行:公益社団法人 全国市街地再開発協会

【司会】

マンション再生協議会のシンポジウムを開催いたします。今年は、「マンションの再生に係る専門家の育成」をテーマにシンポジウムを開催いたします。それでは、ここからは、小林会長にコーディネーターとしてシンポジウムの進行をお願いいたします。

小林会長

△コーディネーター 小林会長

【小林会長】

それでは、シンポジウムをこれから進めさせていただきたいと思います。私は、一コーディネーター役でございます。テーマは「マンションの再生に係る専門家の育成」でございます。ご案内のように我が国のマンション再生の問題は非常に重要な政策課題となっており、年々その課題は重くなっていくばかりでないかと思います。マンション再生は、ここにいらっしゃる方はご案内と思いますが、改修と建替えと大きく分かれます。一般的には、修繕、改良しながら年を重ね、築後30年あるいは40年経過した時点をきっかけとして、建物として改修か建替えかの分岐点に差しかかるというのが一般的だと言われています。その判断をマンション居住者、管理組合に委ねられることとなりますが、その際に建替えか改修かの的確なアドバイスをできる専門家が相対的に少ないというのが実態であると伺っております。
今回のシンポジウムでは、そのような状況を改善してマンション再生において直面する課題を整理し、先ほど申し上げましたように改修か建替えかの分岐点の的確なコメントができる、情報提供ができる専門家の育成をしていくためにはどうすればいいかということを、そういう課題に何らかの形でかかわっている四人の専門家にお集まりいただいて議論させていただきたいと思います。
最初にパネリストを紹介させていただきます。配布資料がございますので、ご参照いただきたいと思います。私の近いところから、芝浦工業大学教授で、改修に詳しい、南さんです。

パネリスト

△パネリスト

【南氏】

南です。よろしくお願いします。

【小林会長】

それから、実業の立場で耐震改修をしている宮城さんです。

【宮城】

宮城でございます。

【小林会長】

同じく専門家として建替え実務に深くかかわっている堀口さんです。

【堀口氏】

堀口といいます。よろしくお願いいたします。

【小林会長】

それから、法律家として建替え及び改修にもさまざまな面でかかわっておられる戎さんです。

【戎氏】

戎です。よろしくお願いします。

【小林会長】

進行ですが、まず、この四人の方にそれぞれ10分から15分程度お話をいただきたいと思います。テーマは先ほど申し上げたとおりでございます。その後、私のほうで若干課題を整理させていただいて、3、40分になると思いますが、幾つかのテーマについてご意見を皆様に伺うという形で1時間30分のシンポジウムを進行させていただきたいと思います。
それでは、早速ですが、順番は先ほどの紹介とは若干異なりますが、宮城さんからお願いいたします。

宮城

△宮城

【宮城】

では、ご指名でございますので、私、宮城のほうから話をさせていただきたいと思っております。
ご紹介いただきましたとおり、私は実務として分譲マンションあるいは団地の大規模修繕あるいは耐震診断、耐震改修というようなことに主に携わってございます。また、大学のほうでもリノベーションを教えているというようなことで、今日は少し改修の世の中の実態みたいなところをご紹介させていただければと思っております。10分から15分ということなので、ちょっとかいつまんでのお話になりますが、お聞きいただきたいと思うんです。まず、これから人材を育成していくというような視点に立ったときに、今おかれているマンションの現場の実態というものをぜひ素直に受け入れられる、そのことそのものが能力じゃないのかなと思うところがございます。
実はこれまでは、マンションの大規模修繕あるいは耐震診断というようなことに一生懸命踏み込む管理組合というのは、相当意識が高くて、我々のような専門家に依頼をする、相談するという方々、マンションは非常に優秀な組織体であったと言えるわけですけれども、ここにきて、やはり東日本大震災を経て、東京都の条例も動き出しまして、緊急輸送道路沿道建物の耐震診断が義務化された場面にもマンションが当然ながら巻き込まれています。「ただでやってくれるから申し込みました」「仕方ないから、義務だからやります」というようなことで来るわけですから、当然今までの意識とはまるで違う水準の管理組合の意識あるいはメンバーの方々が存在するわけです。
現場へ行ってお話を伺いますと、「管理組合はありません」とおっしゃるケースにも遭遇します。すると、管理規約は当然ないわけですから、修繕積立金も積み立ててないですし、雨が漏ったらお金をちょっと集めて直している実態です。30年間40年間そういう状況があるわけですから、当然、じゃ、診断をしましょうといっても図面もないわけです。特に構造図がないと図面を起こし直すという作業がまず我々に課せられるわけで、当然ながら図面作成について東京都は費用を出していただけません。自費でその調査費用、作図費用を出していただく、それがないと診断すらできないというような状況に陥って、まだまだ頓挫している、前に進めないマンションが多いのも実態でございます。仮に図面があったとしても、図面どおりにつくられていない、我々建築業界としては非常につらいところでありますが、その実態があります。
特に、鉄骨造等になりますと、耐火被覆、アスベストで包まれていて、仕口のところがわからない、図面どおりかと思って計算をしてみて、実際に工事をしようとしてみると、違う溶接方法がとられている、これが圧倒的に多い、そんな実態もございます。そして、30年40年たっておりますと、いつの間にか、増築がされている。駐車場で容積率算定の床面積が入っていないところが店舗になったり、事務所になったりというような使われ方、登記されている場合もございます。
そんな状況の中で、国や各自治体の補助金をいただきながら診断をしていく中でさまざまなハードルが待ち構えているということになるわけでございます。また、特に耐震補強というような視点で見ていきますと、旧耐震基準がもう築32年です。新耐震基準といっても、もうちょっとその名称はそぐわないかもしれないぐらいもう随分たつわけで、当然ながら給水管とか排水管とか、大変大きな工事をしなくてはいけない場面とぴったり符号してくるんです。昔は、断熱材もろくに、内断熱すらやってないマンションも実は多いですから、開口部の断熱化とあわせて外断熱のような省エネ改修も求められています。あるいは今でも大きな問題になっている階段室型住棟へのエレベーターの設置を代表とするバリアフリーの改修も耐震補強と、むしろ住んでいる人たちにとっては、そちらを優先してくださいというようなニーズが高いのも現実でございます。
そのような物理的な劣化を直していくというようなこととあわせて、やはり法律もどんどん変わっております。用途地域も大きく変わって、特に厳しくなって、高さ制限が後から加わっているというようなものも都市部のマンションは抱えている問題があります。今のマンションの大体半分ぐらいになっちゃいますねというようなところがやはりあるわけでして、そういった中で、何ていいますか、建替えか改修かというような二極の議論というものは既に限界に来ているのかなと。国の方々が考えているようなシナリオ、プログラムどおりにはやはり進められない、そんなことを痛感することが多くなってまいりました。
やはりこれまで建替えが前提になって、建替えに匹敵する改修を行ったらどのくらい費用がかかるかというような算出をするとか、耐震診断をして、補強をかけたらどの程度金額が上がってくるのかというような比較の中で我々改修の業務が組み込まれていったような、そんなきらいもあるわけですけれども、実は居住者の方々、区分所有者の方々は、かなりもうドライにというか、冷静に受けとめられていて、「ああ、もううちのマンション、団地はもう事業性がないから建替え無理なんです」とはっきりそうおっしゃる方もやはり大変多くなってきました。それでも、執行部の方々はそうであっても、やはり一般の居住者の方々は漠然とした建替えへの淡い夢を、大変抱いていらっしゃる、そこも決してむげにはできない中で我々の業務がスタートしていくというようなことがございます。
こういった実態を正確に受けとめる能力をどうやって築いていくのか、どんな人材育成なのかというイメージを考えたときにやはり現場で鍛えていくしかないなと。教科書をつくって座学だとか、大学の演習なんかで組み込んでみても、やはり直接クライアントと接して緊張して失敗して怒られて、また相当理不尽なことを言われて、我々鍛えられてくるわけですけれども、それをほんとうに数こなして、経験を増やしていく、もうその積み重ねしかないのかなというようなことを思うわけでございます。これは、私どもが所属しております日本建築家協会のメンテナンス部会、大変改修に一生懸命な建築家の集まりが、やはりベテランと新人と組んでマンションに入り込んでいくとか、あと先ほど申し上げた東京都の緊急輸送道路沿道建築物の耐震化の作業を行っている耐震総合安全機構(略称JASO)という組織があるわけですけれども、ここではやはりいきなり精密診断に行くのではなくて、まずは耐震のためのアドバイザー派遣に行って、図面があるかないかどうか、そこから見てあげるんです。それから、簡易診断を行って、精密診断が必要か否かを判断し、精密診断へステップアップをしていきます。その結果、耐震補強が必要な場合は補強設計をして耐震補強工事というようなことに進んでいくわけなんです。
そのときに、やはり今までマンションの、特に分譲マンションの耐震化が進んでいない要因として、構造屋さんがいきなり管理組合に乗り込んでいって、その必要性、義務化を説いてもなかなか理解してもらえない。非常に言葉が難しい、専門用語を我々以上に使いがちなところを、実は建築と構造と設備の三者でJASOという組織は動いていまして、我々は建築意匠の立場なんですけれども、構造屋さんがしゃべりたいこと、表現したいことを翻訳しながらわかりやすく管理組合の方々に、一般の方にもわかるようなそういうコミュニケーションをとっていくことで、耐震化、それも総合的な設備のインフラも含めた、あるいは建築の二次部材ですとか、避難経路の確保だとか、決して構造だけで耐震化は図れないということを主張しながら経験を積んできました。それも現場でやってきた、その現場で培われたノウハウが重要だと考えてございます。
したがいまして、人材育成は大変時間がかかる作業でございます。建替えも当然ながら時間がかかりますけれども、人材育成もそれ以上に時間がかかるというような腹づもりで我々もこれからの後進の育成に長いビジョンで考えていかなきゃいけないなと思っているところです。最後に、今の学生たちを見ていますと、非常に頼もしいなというか、有望だなと思いますのは、我々の世代、我々以上の世代は、新築が花で改修とか修繕はちょっと隅のほうに追いやられたような、そんな僻みすら感じてたような、特にゼネコンの方なんかはよくおっしゃるんですけれども、今の学生たちは決してそういった何か優劣が一切なくて、リニューアルだとか、リノベーションとか、すごく目をきらきら輝かせて課題だとかいろいろな講義でも聞いてくれる、そんな素養をすごく持っているというところはものすごい可能性を持っているなというふうに思っていて、当然バブルを知らない学生たちです。やっぱりお父さんたちの給料が上がらない、もしくは下がっていく中で育ってきていますから、当然今あるストック、建築物を大事に使っていく、古着を大事に着てくるような感覚で社会のインフラ物を捉えてくれるんじゃないかなというふうに期待しているところもございます。
ちょっと雑ぱくになりましたが、実務のところから紹介させていただきました。

【小林会長】

どうもありがとうございました。宮城さんから現場の実態を受けとめられる、そういう能力を持った人材がまず必要であるという指摘がありました。また、そういう人材は現場で育てられるというお話と、それから、近年、このようなテーマに大変高い意識を持った学生が増えつつあるという期待が持てるお話をご紹介いただきました。ありがとうございました。
次でございます。南さん、お願いいたします。

南氏

△南氏

【南氏】

本日のシンポジウムはマンション再生に係る専門家の育成がテーマですので、まずマンションの修繕・改修工事が今、どのような課題を持っているのかを説明し、それに基づいて専門家にはどのような能力が求められているのかをお話をさせていただきたいと思います。
まず、建替えに至るまでの修繕・改修工事について説明させていただきます。修繕・改修工事についても、建築の技術的なことだけではなく、法律等の難しい問題もあります。多額のお金がかかりますから、どうやって資金を準備するのかといった経済的な話もあり、幅広い専門的な知識が必要です。
マンションでは多くの区分所有者の合意により、工事を実施することになるので、区分所有者どうし、また管理組合と専門家がうまくコミュニケーションできることが重要です。 管理組合にとっては、初めて大規模修繕工場を経験する方も多く、建築のことに詳しくない方がほとんどです。専門家の使う専門用語がよくわからないということが多いですので、管理組合の方と専門家が、うまくコミュニケーションできるように共通の情報基盤を整備することが重要であると考えています。
昨年、国土交通省が「持続可能社会における既存共同住宅ストックの再生に向けた勉強会」を開催しましたが、その成果がホームページで公開されています。その成果に基づき、住宅リフォーム・紛争処理支援センターが、2013年の3月に「長く暮らせる共同住宅へ」というわかりやすいホームページを開設されています。勉強会の成果を解説した図書も最近出版されました。実は私自身も今、管理組合の理事長をしています。築13年目ということもあり、修繕工事について検討していますが、理事会や総会では、いろいろな意見が出てきます。区分所有者の皆さんは、一人ひとり価値観が違い、何を優先して取り組むかについて、考え方が人によって違います。耐震改修、断熱改修、高齢化対応の改修、東日本大震災を経験して急速に関心が高まった防災時の対応など、技術的な問題や資金の問題など、検討すべき事柄は広範です。そのため国土交通省などが信頼できる情報を提供していただきたいことは、大規模修繕工事を検討する管理組合にとって、必要な情報基盤が整備されたという意味で、大変助けになると思っています。
修繕・改修工事には、長いプロセスが必要になりますが、最初に、お住まいの方が問題点について気づくことが必要です。問題点に気づき、必要性を感じた場合、専門家に建物がどのように劣化しているのか、調査・診断を依頼されることがありますが、いろいろな調査・診断の方法があり、費用も違います。専門家に助言を依頼するにしても、何を頼んでよいのかもわかりませんので、基礎的な知識を得るためには、先ほど紹介しましたホームページ等が役に立つと思います。
調査・診断結果に基づいて、修繕・改修工事の設計委託を行うこともあります。設計委託や積算は、建築の仕事をしていない一般の方にとってはやっかいなことです。見積書に書いてあることは非常に専門的ですので、一体何が書かれているのかよくわからない、その価格が妥当かどうかの判断も難しい。大きな金額の工事を発注する場合、複数の会社から見積もりをとり比較することもありますが、どのような工事業者の方に依頼したらよいのか、判断に困ります。そうなってくると、専門的なことについて適切にアドバイスしてくれる人がいたら助かると思う管理組合が多いのではないかと思います。
マンションといっても、実は非常に多様です。タワーマンションもあれば、中高層のもあります。ファミリー向けのものもあれば、ワンルームのもの、リゾートマンションもあります。どの形態のマンションも劣化して、何らかの修繕工事、改修工事も必要になります。お住まいになっている方の構成も変わります。どういう修繕・改修をしたいのか、何を優先したいのかということについて、意見が分かれることが多いと思います。価値観は多様で、一人ひとり違う。40人の区分所有者がいたら、40人とも違うということになりますので、どうやって合意形成をしていくのかが重要です。
大規模修繕が近くなり、管理組合の理事や理事長の順番が回ってくると運が悪いなと思う人が多いかもしれません。区分所有者の一人ひとりがおっしゃっていることは正しいのですが、意見をまとめて一本化し、妥当な工事費用で工事を発注する。しかし妥当かどうかとの判断が非常に難しい。その難しい判断に対して、客観的に専門家から、これが妥当であると助言していただけると、合意形成もしやすくなると思います。
少し、技術的なことになって申しわけありませんが、マンションの大規模修繕工事は、基本的には「予防保全」だと思います。壊れてから修繕するのは「事後保全」です。代表的な例が窓ガラスです。窓ガラスは、割れたら直すわけです。割れる前に窓ガラスを修繕する人はいません。マンションの大規模修繕工事は、例えば、雨漏りしてからではまずいので、あらかじめ対応する「予防保全」が多いと思います。しかし劣化の状態を見て修繕工事の必要性を判断するのは一般の方には難しく、中立的な立場の専門家が見て判断することが望ましいと思います。
現在、国交省では社会資本整備審議会にメンテナンス戦略小委員会を設置し、道路、橋梁、下水道、公営住宅などの、日本が築いてきたストックをこれからどうやって手を入れて、少しでも長く使っていくかということを議論しています。そこでも予防保全について議論されています。予防保全といっても、例えば竣工後、12年経過したら屋根の防水層を修繕する、15年経過したら外壁の改修をするなど、計画を立てて実施する場合もありますが、何年目だから全部、修繕するとお金もかかります。私の個人的な意見ですが、マンションも単純に何年経ったから修繕するというのではなく、劣化状況を技術的に判断して、必要に応じて修繕する「状態監視保全」の手法を、技術的な知見が得られたものから導入していくとよいと考えています。そのためには、我々建築の専門家ももっと勉強しなければいけない。50年前にできた建物と30年前にできた建物ではつくり方が違っています。丁寧にメンテナンスされている建物とされていない建物では、劣化状況も違います。立地条件や気候条件などの影響もうけますので、専門的な知識が必要です。修繕工事の方法にも幾つかの選択肢があり、応急的に修繕して次の抜本的な修繕までつなぐ手法もあれば、この機会に全部きちっと全面的に修繕する手法もあります。将来、建替える話がある場合と、ない場合によっても判断が変わってきます。専門家は劣化状況を判断して、また管理組合の考え方を踏まえて、こういう場合はこういう修繕工事を行う。その結果、今後どの程度の期間、使用できると、説明できなければいけないと思います。修繕・改修工事の場合は、選択肢が非常に多く、それをきちんと整理して説明することが求められ、難しい仕事だと思います。
修繕・改修工事はある意味、投資です。技術的な条件と経済的な条件を総合的に判断して管理組合に説明し、納得していただいて進めていく必要があります。場合によっては、自分の住んでいるマンションを売ろうということを考えている方もおられます。今、多少お金を払って修繕しても、何年かたって売却するとき、より良い値段で売れるのなら、多少の費用を負担しても、修繕したいと考えるかもしれません。経済性と技術の両方について、専門家にアドバイスを求めることがあるので、非常に幅広い能力が専門家には求められているのではないかと思います。
以上です。

【小林会長】

ありがとうございます。南先生からは、マンションには多様な居住者が存在する。また修繕・改修というのはかなり多段階があり、いろいろな場面が出てくる。そういう多様な方々が、多段階の改修・修繕があるのに合わせて、その都度に話し合える材料として情報基盤が必要である。それが徐々にではあるが整理されつつあり、それをうまく使うべきだというお話がありました。それからもう一点は、最後にお話になりました予防保全の議論です。これは経済性とも絡んで、時間が来たから保全する、改修するというのではなくて、状態をしっかり監視してコストを、コストというより投資をするということにつながるのですが、いつどういう状況で投資したらいいかという判断をこれも必要になってくるという、かなり専門的なお話をいただきました。ありがとうございます。
それでは、三人目のパネリストになりますが、堀口さんお願いいたします。

堀口氏

△堀口氏

【堀口氏】

環境企画設計の堀口でございます。今まで話していただいた両先生は、修繕・改修の立場で関わってきた先生方、私は、マンションの建替えという実務に関わってきた者としてお話をさせていただきたいと思います。
私自身は、実は市街地再開発事業というものを三十数年やってきている人間でございます。実は、阪神・淡路大震災のときに兵庫県の分譲マンション復興相談センターというところに応援に行って、実はお隣にいらっしゃる戎先生とともに兵庫駅前の360戸のマンションの建替えに関わったということから、再開発事業をやりながら、現在はどちらかというとメーンがマンション建替えの業務ということをやっております。その観点から気がついたことをお話させていただきたいと思います。
私が所属しています再開発コーディネーター協会という協会では、長年再開発事業のコーディネートをしてきたわけで、合意形成という面で専門家を育ててきたわけでございますが、阪神・淡路大震災以降マンション建替え事業支援委員会というような組織を立ち上げて再開発事業だけではなくて、マンション建替えのコーディネートもできるようにしようということで、頑張っているわけでございます。
しかし、このコーディネーター協会の協会員の中でもマンション建替えに携わっている社は比較的まだ少のうございます。やはりメーンの仕事は再開発事業ということで、やはり再開発事業のほうがボリュームがありますので、大きな会社はそちらをメーンにやっている。我々のような中小の会社は、マンション建替えの分野をお手伝いしていこうということになっております。
ですから、今大体年間10万戸ぐらいの戸数で30年を超えるようなマンションは毎年毎年増えていくような状況でございますが、その中でまだまだ陣容不足だというのは否めないところかと思います。ですから、今後とも我々に続く人たちを育成していくということが大変必要であろうと考えている次第でございます。
マンション建替え事業というのがどんなものかというところをちょっとお話したいと思うんです。私も市街地再開発事業を随分やってきましたが、市街地再開発事業に関わってくる人たちというのはいろいろな立場の人がおります。土地の所有者であったり、不在地主であったり、借地の方もいれば、店舗をやられている方もいれば、住宅として住まわれている方もいると。そういう多種多様な人たちが関わってくるのに対して、マンションというのはやはり同じような立場の人がいらっしゃるわけです。
これが、実は悪い方向に向きますとグループ化が進む。つまり、同じような立場でございますから、グループになるのが簡単なんです。立場が違うとなかなか顔色をうかがいながらグループ化されにくいんですが、グループになるのが簡単。そうしますと、一般的な管理業務をやっている中で非常に円満にできているマンションはいいんですけれども、通常の管理業務の中でいろいろ意見の対立が起こってきたりしますと、そういうものがマンション建替えという中にすぐ反映されてきてしまうんです。で、派閥ができてしまう。そういうことが、大変、そういう状況に陥るとその派閥の解消をするということが大変になってくる。まず、それをやらないと、派閥があって、その両方の派閥が建替えたいと言っているのに、あいつがやっているのは嫌だ、こっちがやりたいみたいな、そんなようなことが発生してきます。ですから、そういった人たちを一つの方向にまとめていただくためには非常に高度な合意形成能力というのが求められます。
それから一方、マンション、先ほどもありましたようにいろいろな形がある。つまり、権利関係あるいは団地、単棟、単体の建物、あるいは借地権建物、それと今、私なんかが携わっているのは、3分の1が店舗、3分の2が住宅というと、住宅にお住まいになられている方と店舗にお住まいになられている方の利害関係が表面化していくと、こんなようなこともございます。そういうことで、マンションの形によっていろいろやっぱり取り組み方が違ってくるものですから、かなり幅広い知識を持っていないと、対応し切れません。そういうようなところが、マンション建替え事業の特徴かと思います。
私はマンション建替えという方向で専門でやらせてもらっていますが、お隣にいらっしゃる先生方お二人は、修繕・改修の専門ということで、マンションから依頼が来るときに、どちらかの専門家のところに依頼が来ることになろうかと思います。そういうことで、依頼されたマンションに行くわけですが、マンション再生というのは、私は、建替えの立場でやっておりますが、必ずしも建替えがいいというわけでもございません。建替えがいいのか、修繕・改修がいいのかというのは冷静に判断をしないといけない問題でございます。
ですから、最初から建替えの方向でぎらぎらいったんでは、これはもうほんとうに、無用の混乱を招くだけとこういうことになります。ということで、修繕・改修でいくのか、建替えでいくのか、どちらが合理的なのか、その辺の方針が決まるまでは、両方の知識を持ってないといけないんです。私は、建替えの専門のほうでございますが、やはり修繕・改修をすると、こういう修繕・改修の仕方があって、このぐらいの費用がかかるということぐらいはわかってないと、できない。当然のこととして細かい話は修繕・改修の専門家とコラボを組んでやることになりますけれども、基礎知識ぐらい持っていないと、全体を取りまとめていくということにはできないわけでございます。ですから、専門家の育成という観点から見ますと、基礎知識の部分はやはり建替えなら建替えのことを学ぶだけではなくて、修繕・改修のこともやっぱり学んでいくということが重要なんであろうというふうに思っているわけです。
次に、マンションの現場に入りますと、まずいろいろな方がいらっしゃいます。先ほども申し上げましたように派閥ができている場合もあるし、建替えにも建替えするんだからいいんだ、細かいことはという方もいらっしゃれば、いやいや、まだまだ修繕で十分住めるんだから、修繕でいくべきだと、ですから、そういういろいろな方がいらっしゃるわけで、その間は、我々としては要望を公平にきちっとしたデータを示して説明し、区分所有者の皆さんにどちらの道を選んでいただくのかを決めていただくと、こういうことになろうかと思っています。そういう意味では、育成、基本的な部分につきましては、両面の手法についての勉強が必要になるんじゃなかろうかと思います。
それから、一方でマンションに関する法律の問題、戎先生がお隣にいらっしゃいますので、この後お話があろうかと思いますが、この法律の問題は非常に多岐にわたっています。単純じゃないんです。権利状態によって、対応の仕方が全然違ってきます。これをしっかりわかってないと法律上の瑕疵を犯してしまうということがあります。ですから、ここはしっかり勉強しておかなきゃいけない。ただ、基礎的な勉強というのは、ペーパーの上でできるのかもしれませんが、ほんとうに何が問題なのかというところは、現場に入ってみないとわからない。現場に入ってみて初めて権利関係だけじゃなくて、いろいろなパターンがあるということがわかります。
今の法律は、やはりこうこうこういう条件が整った場合にのみ建替え決議ができるとなっていまして、どんなマンションも建替え決議ができるわけじゃないんです。万能ではないんです。全体のマンションの何割かしか対象にならないと思います。特に団地の場合には非常に難しい。
一つには典型的な例としてはテラスハウスがあるような、いわゆる分有の土地を、つまり自分の建物の下が、分有の土地になっているんです。建替え決議ができるのは、共有の土地の上に建っている建物じゃないといけないわけです。そうなると、このテラスハウスの方たちの同意というのは、全員の同意が必要になる。建替え決議の意味がなくなるんです。一人でも反対している方が出るともうできなくなってしまうんです。そういうことがあります。
同じようなのが、ある一時期に分譲されたマンション、駐車場の土地が、おのおのの人に分譲されているなんていうことがございます。この場合も同じようなことが起こってまいります。
そういうことで、実際に建替え決議ができるのかできないのかというところだけでも、相当いろいろなパターンが出てきます。何を申し上げたいかというと、基礎的な、まだ現場にも出たことのないような方が、そんな深いところまで勉強しても消化不良に陥ります。ですから、やはり二重構造、基礎を知って、現場に出て、現場に出てぶつかる中でいろいろな問題があって、それをまたちょっと研究しなければいけないということで、基礎編と実務編のような形で育成プログラムというのは2つくらいやっぱり用意する必要があるんじゃなかろうかなと今、考えている次第でございます。
この後いろいろな話が出てくるかと思いますが、とりあえず出だしは、この程度のお話をさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

【小林会長】

ありがとうございました。堀口さんからは、建替え、改修・改善、両方の幅広い知識を持つ人材が必要だという話、そういう知識は、基礎知識と応用知識に分かれ、応用知識をしっかり身につけるにはやはり現場に入って、それなりの苦労をしないと、自分のものにならないというお話をいただきました。また、そのための育成プログラムを考える必要があるだろうというお話をいただきました。ありがとうございます。
最後のパネリストでございます。戎さん、お願いいたします。

戎氏

△戎氏

【戎氏】

戎でございます。先ほど堀口さんのお話にもありましたけれども、私は阪神・淡路大震災以来、たくさんのマンションの修復あるいは建替えに携わってきましたが、その中には、被災したマンションが、4分の3以上の復旧決議も成立しないし、5分の4以上の建替え決議も成立しないために、十数年も被災した当時のままというような例もありました。マンションというものは団体的に意思決定できなければそういう状態になってしまう。法的にはそのような存在だということを理屈ではなく体に叩き込まれた…そういう経験をしてまいりました。
さて、本日のテーマであります専門家あるいは専門家支援のあり方についてどういうふうに考えていったらいいかということなんですけれども、まずは「専門家」に求められる資質です。専門家はスペシャリストですが、マンション再生の支援という場面では、スペシャルなスペシャリストではなくジェネラルなスペシャリストが求められているといえるのではないでしょうか。どの段階から関わる専門家かにもよりますけれども、初期の支援つまり、まだそのマンションが何も再生のことを考えておらず、建替え、改修いずれの方向にもなりうるところに入っていく場合の専門家は、ある意味でジェネラルなスペシャリストでないといけないというようなことがはっきりしてきたと思います。
そこで、さらに、「資質」について考えてみますと、第一に、何を支援するのかという観点からいえば、専門家が「このマンションは建替えなさい」とか「改修しなさい」と決めるわけではないということが重要です。決めるのは区分所有者の団体であって、専門家は区分所有者の「合意形成」を側面から支援するのだという認識です。建替えや改修そのものを支援するわけじゃない。そのような支援における専門家の役割の第一は、区分所有者の皆さんに「合意形成の前提」を理解してもらうということだと思いでます。では、合意形成の前提とは何かといいますと、まずは自分たちの「マンションの形」でしょう。これは、マンション標準管理規約でも単棟型、あるいは団地型、複合型と、3タイプありますし、さらに、テラスハウス型等もっと多種多様な形のマンションが現実には存在するわけです。そのマンションの形に応じてその後の合意形成の法的な手続等が決まってくるし、あるいは不可能な建替え計画もわかってくるわけです。どのような再生が可能か、その検討の大前提として、自分たちのマンションがどのような(規約がどうなっているのかというソフト面も含め)形なのかをまず理解をしてもらう、そこのころのアドバイスができないとダメと思います。例えば、団地の一括建替え決議区分所有法は全ての団地でできるわけではありません。団地型標準管理規約の想定している団地だけです。土地が全員の共有で、全ての建物が区分所有建物で、かつそのすべての区分所有建物が団地管理組合の一括の管理対象物として規約で規定されている、という3条件を満たしている団地型マンションでのみ可能です。
次に、どんな人が住んでいるのかということです。これも先ほどから話が出ていますけれども、店舗所有者の方がいる、あるいは居住用マンションであるという区分所有者の属性いかんによってその後の合意形成に大きく違いが出てきます。そういうことをまずきちんとわかってもらう、このことが一番大事だと思います。その上で、さらに再生のメニューもまた多様だということ理解してもらうことです。建替えもあれば、大規模改修もありますし、区分所有関係の解消(現行法上は被災したマンションしか決議できませんが)というような形の再生もあり得るということです。また、大規模改修、例えば耐震改修のやり方一つをとっても、様々な工法等があるわけです。建替えもまた然りでしょう。そういうふうに再生のためのメニューも多様だということもしっかりとまず伝える。つまり選択肢をきちんと提示できる、これが初期段階で関わる専門家に求められるところだと思います。
そして最後ですが、再生というのは、一定の法制度なり施策のもとで技術とお金を使ってやるものです。そうしますと、技術情報と法制度・施策についての情報、そして、資金、金融的な情報、建替えでいえば、これからは建築概要や建替え計画、資金計画に相当するものですが、この3つの情報を区分所有者に伝えることが重要であることはいうまでもありません。以上のような前提となる基本情報が示されてこそ区分所有者は数ある選択肢のうちどれでいこうかということを合意形成していくことが可能なのです。
第二に、求められる資質として「紛争」ということについての感覚を持つことというのが求められると思います。人は諍うあるいは揉める動物です。で、例えば、先ほど申し上げた選択肢を提示しないというのはやっぱりよくない。大きく分けても建替えるか現在の建物を維持しながら改修なり修繕していくか、大きく分けて2つの方向性があるわけです。この2つを同じ程度の重みを持って取り扱わなければ、それだけで紛争になります。そういう意味でニュートラルな立場で関わるということが重要でしょう。特に初期はそうだと思います。最初のボタンのかけ違いから紛争になってしまうと、その後は全然動けなくなってしまう、マンションにはそのような怖さがあります。それから、マンション再生の合意形成の形は総会における決議という法形式を取るわけですが、総会での決議は、民事的な決定ですけれども、手続や成立要件、有効要件は法律に書かれているわけで、それらをきちんと履践しない限り有効なものとはなり得ないわけです。そうしますと、そういった手続というのはちゃんと決まっているわけですから、そういった手続面をきちんと工程管理していくという感覚を持たなければ、せっかく合意形成できたと思ったのに、総会決議無効確認の訴えだとかというような裁判になって、これまでの合意形成の努力が無駄になりかねません。
したがって、そういう意味で紛争や紛争の予防という部分についての感覚も持っていることが必要かなと思います。
最後になりますが、第三に、翻訳者ないし通訳者としての資質をもつことでしょうか。先ほどの合意形成の前提ですが、これはかなり専門的な事項です。したがって、それをそのまましゃべったのでは区分所有者には伝わらない。ですから、先ほどからのお話にもありましたけれども、コミュニケーションが上手なうえにインタープリター的な機能というか役割も果たさなきゃいけないだろうと思います。
このように考えていきますと、それってスーパーマンじゃないかみたいな話になって、そんなものをどうやって育成できるんだという話になりかねない危うさもあります。しかし、たしかに全部野についてスペシャルなスペシャリストになれるわけではないんですけれども、ある程度まではジェネラルにマスターした上で、人は不合理なものだという感覚を持って現場に入っていける、そういった人材がやっぱり求められているのではないかなと思います。以上です。

【小林会長】

どうもありがとうございます。戎さんからは最初に人材の資質として、ジェネラルなスペシャリストという、そういう資質の議論がございました。その上でマンションにかかわる多様な形とおっしゃっていましたが、これはハード、ソフト、両面を含めた形が非常に多様なので、できる限り選択肢を提供するということが何よりも必要であるというお話がありました。選択肢には技術とお金と法制度という3つの基盤があって、それぞれの情報提供が必要ではないかというお話がありました。さらに、ニュートラルな立場で議論する、あるいは情報提供できて紛争予防を考えられる、そういう人材も必要ではないかと、そういうような考えていくと、どうもスーパーマンが期待されていることになるというお話がございましたが、このスーパーマンについて最後のほうで皆さんでご議論をやっていただきたいと思います。ありがとうございました。
四人の方からそれぞれのお立場、お立場でご意見をいただいたところでございます。これから、少しテーマを絞って皆さんとご議論いただきたいと思っています。そのテーマを私のほうから幾つか提示させていただきたいと思います。
一つは、建替え、修繕・改修の議論をやってまいりますと、そういうことを実体験として経験していないとなかなか、先ほど戎さんが言ったスペシャルなジェネラリストですか、そういう人材が育たないという話につながるのかと思います。そうすると、そういう実体験を伴った専門家を育てる仕組みのようなものが現実的にどういうふうな形で動いているのかということについてまず議論したいと思います。宮城さんから少しそれに近いお話をいただきましたけれども、重ねて宮城さん、堀口さん、それぞれ実践されているお立場でこのような人材を現場で育てる、実体験から育てるということがどのように現実に行われているのか、あるいはこういう形でやることが望ましいんではないかというご意見をまずいただきたいと思います。宮城さんからお願いいたします。

【宮城】

先ほども少し紹介しましたけれども、耐震診断について耐震総合安全機構という、JASOという組織がありまして、これもやはり阪神・淡路大震災を受けて構造的には建物は大丈夫だったんだけれども、住宅あるいは工場としての機能が喪失してしまったという大きな反省から構造技術者のみならず建築技術者と設備技術者、この三者が一体になって立ち上げた組織が前身でございます。やはり総合的な耐震というような視点を持ちつつ耐震化を図っていくということを今でも現場でやっているわけです。それはやはり総合的な力を持っている建築家がやはり新築のときもトータルな立ち居、振る舞いをするわけですけれども、構造、設備その両方とのやりとりから法的な手続の窓口にもなっている。そういったかなり動きの範囲の広い、あるいは動きの早い人材が求められます。通常であれば構造技術者というのは、新築時にもしかしたらクライアントと一切接しずに建物が完成しているというような業務をなさっている方も中にはいらっしゃって、とてもダイレクトにクライアントと会話する、自分の意思、考えを伝えるという能力が必ずしも十分でないというのも事実であります。
またこれは、やはり構造的な問題、建築業界の問題かもしれませんが、構造も設備の下請として使ってしまうような意識がやはりどこかに生じていて、そういったものを解消していく、我々の課題も実はあったわけです。そういったことをまずはアドバイザー派遣と先ほど申し上げましたけれども、最初は建築と構造二人で現場に乗り込むんです。そこで、ちゃんと図面がありますか、当時の確認通知書はありませんねと、図面はばらばらですね、構造図が入っていませんねというようなところからスタートするわけです。簡易診断になると設備の人間もそこに加わって、屋上の塔屋に上って、高置水槽の固定状況を確認したりとか、設備の耐震性の診断をしていくわけですけれども、やはりそこでも設備技術者が管理組合とあるいは建物所有者と直接に会話していく、その中で彼らもトレーニングをされて、専門的な知識のない方々にどのように伝えていくのか。先ほど戎さんからもありましたけれども、どういう選択肢があって、これから例えば耐震化に臨んでいくんだというようなことがみんな力、肉についてくるというようなことがあろうかと思います。
やはりそれは各事務所の、実はJASOはNPOの組織なんですけれども、各事務所の中でやっているオン・ザ・ジョブ・トレーニングが当然あるわけです。それが一つの組織体になったときにある運動体のようにそれぞれが切磋琢磨して反省点みたいな、失敗事例などが大変いい教材になるわけですけれども、その中でやはり成長していく、鍛えられていくというような姿があったかと思います。
やはりそれが、これからそこに、耐震のみならず改修、そして建替えというようなメニューをどのように導いていけばいいのか、まだまだ道は遠いかと思いますけれども、例えば、耐震についても補強方法が、今、耐震補強とそれから制震、それから免震、大きく3つあるわけです。最低限その中からどれを選んでいくかというようなことが、まず選択肢として大きくあって、やはりその中で耐震を選んだときに鉄骨のブレースがあったり、耐震壁があったり、炭素繊維を巻いたりというような細かいディテールの技術になっていくわけですけれども、それと費用の睨み方、その辺がちゃんとてきぱきとある程度広く浅くてもいいから最初答えていかないと皆さんに合意形成の円滑な進め方を逆に阻害してしまうというようなところも、やはり現場で学んでいった成果が今、少しずつ実績を上げて、東京都の条例の中でも大分評価を受けているというようなことがございます。そんな一つの事例です。

【小林会長】

ありがとうございました。そのときに、先ほど宮城さんから現場の実態を受け入れると、現場がさまざまに多様であるというお話がございました。例えば、初めてそういう現場に専門家として入るときに、こういう点はチェックリストとしてしっかり現場を押さえる項目としてあるんだというようなことを情報提供する場が、例えば、先ほどのJASOですか、ほか、いろいろなところでそういうものはある程度でき上がっているんですか。

【宮城】

これも非常に、まだまだ十分に確立している部分はないんですけれども、実は耐震事業というのはそれぞれの自治体窓口が受け皿になっていますので、東京都の条例の中であっても、窓口は各区あるいは市になっています。それぞれシステムがやはり微妙に違って、判断もまた評価も違う。ちょっとそこの問題もあるんですけれども。やはり今、我々つくっているのは、それぞれの区、市のフォーマットをつくって、その中でチェックシートも含んだ業務報告書を、例えば簡易診断とか、そういったものでメニューをつくって、アドバイザー会議の中で議論して、ちょっと改良したらいいよと、こういった項目を増やすべきだよ、ここまで設備の人間は見ようねというようなことをやりながら、まだ形づくっているような、そんな最中の組織でもあります。

【小林会長】

それでは、もう一方、現場で人材を育成する堀口さんは、建替えと改善・改修と両面にわたって判断できる人材が必要だというお話でしたが、そういう立場で現場でどういう形で人材を育てていけるのか、あるいは実際にどういう形でやっていらっしゃるのかということについてお話をいただきたいと思います。

【堀口氏】

先ほど戎先生からも、マンション建替えだけじゃない、修繕、耐震を含めてマンションというものは紛争がつきものだというお話がありました。そういう意味では、私どもも一人で物事に当たるということはしません。これは言った、言わないが起こってきてしまいますので、必ず私の事務所の人間なのか、その協力事務所の人間なのかは別としまして、私、現場好きなものですから、現場に行って人と話すときには、私が必ず行きます。委員会が開かれても行くし、あるいは個別面談でも行きます。
そのときに必ずサブで人間を連れて行くことにしております。その中で私が話していることがどんなことなのか理解させ、それが今度事務所に帰ってきて、次の作業をするための、次の作業も私が伝えるだけではなかなかうまくいかない部分が現場で自分も話を聞いていれば、こういう資料をつくればいいということがわかってきます。ですから、常にペアで動くということで教育もしますし、また、やはり相手を見ながらどんなふうに話をしていくと相手の心も傷つけずに、こちらの気持ちがわかってもらえるのかということをわかってもらえるようなことをなるべく心がけています。
それは、実は自分たちの、私の立場のコンサルタントだけではなくて、個別面談などではディベロッパーの方なんかにも協力をいただきます。ディベロッパーの方はディベロッパーの方のいろいろ考え方があるんですが、私流というのをそこにしみ込ませます。徹底して公平にやらんといかんよということは、彼らに教え込みます。そういったこと、いわゆる利益追求の団体的なことをやると、私にしかられることになります。
そういうことで、自分の事務所の人間だけでなく、やはり一緒に事業をやっている事業協力者、ディベロッパーの方々とも一緒に行動することで、そこで何をしたいかということを知らせていくというようなことに努めているところです。

【小林会長】

堀口さんという経験を積んだ人がいて、その堀口さんと一緒に働くということが結果的に教育になっているということでしょうか。

【堀口氏】

基本的にはそういうことでございます。

【小林会長】

例えば、そういう堀口さんのような立場で仕事に携われる方が、我が国にはマンション改修・改善、建替え、かなりいらっしゃるのですか。それとも、いないのでしょうか。答えとしては難しいかもしれませんが。

【堀口氏】

全体としては、先ほども申し上げましたけれども、まだまだ層が薄いということは否めない事実でございますが、やはりそれなりに私どものマンション建替えに特化してかなり勉強もし、一人で物事をでき、あるいはちゃんと教えられる人間というのはそれなりに育っているというふうに思っております。数人ということではなくですね、もう少しいると思います。

【小林会長】

その議論を受けると、宮城さんから、最近学生がかなりこの分野に関心を持ってということのお話がございましたけれど、逆にいうと、学校教育というのは、そういう人材が要求されているということを含めて、学校教育の場でこういう意味での人材育成、宮城さんもかかわっていらっしゃるようですが、現実的にそういうものが可能なのかどうか、あるいは実践されているかどうかという点はどうですか。

【宮城】

でもやはりまだまだ日本の建築の教育の中で、このような再生の分野というのは極めて層が薄い、限られた大学で限られた先生方しかまだ挑んでいないところだと思っています。ですから、そこの充実をほんとうに国レベルで考えていくということはまず最初の取り掛かりだと思いますし、やはり今日も皆さんのお話を伺っていて、コミュニケーションスキルといいますか、その能力というのはやっぱりほんとうにまだもっともっと伸ばしていかないとこれはまずいなと感じました。おそらく国際的に見れば、コミュニケーションスキルについては相当トレーニングが求められると思っています。そうなってくるとやはりもっと幼いころから、それこそ小学校ぐらいからそういう建築再生とはということと直結しないのかもしれませんけれども、何かそういうコミュニケーションの能力を高めるような教育事業プログラムというものがあって、それに専門的ないろいろな分野の知識が、高等教育の中で入っていって、大学でこのような建築、マンション・団地の再生みたいなものがやはり大きな、一つの分野、学問として確立していかなきゃいけないなということは思っていますし、学生たちはむしろすごくそれを求めているんじゃないかなというようなことは体感しているところです。

【小林会長】

そういう話になりますと、南先生が、大学でまさにそういう分野の教育に携わっていらっしゃるんじゃないかと思いますが、南先生の立場からはいかがでしょう。

【南氏】

私は大学で担当にしている建築計画や建築構法計画の授業で、コンバージョンや団地再生について講義をしています。そういう建築ストックの活用法について教える大学が増えてきていると思います。卒業研究や修士論文のテーマとして、コンバージョンや団地再生を研究したいという学生も多く、学生の関心は高いです。就職先としてストック活用の分野を選ぶ学生もいます。学生のほうが先を行っている感じで、我々、教員が育った時代は新築工事が中心でストック活用の仕事をあまり経験していないので、教える側の努力が必要かと思っています。

【小林会長】

ありがとうございます。またテーマを少し移らせていただきたいと思います。南先生のほうから、修繕・改修の議論があり、その修繕・改修に当たっての情報基盤の整備という議論がございました。おそらくその情報基盤の整備の中には技術的な情報基盤とあわせて、先ほど戎さんがおっしゃった法制度の情報基盤、それから経済性の情報基盤もあると思うのです。特に、居住者にとって建替えというのは、あるいは大規模修繕というのはそれなりに自分の大きなコストをかけてやるわけですから、経済性というか、コスト計算がかなり重要な要素を占める、それによって判断がかなり変わる可能性があります。そういう面からもう一度経済性とかコストの面から見て、改善・改修あるいは建替えからでも結構ですが、つけ加えてご発言いただければと思います。

【南氏】

新築工事に比べると、修繕・改修工事の方法は多様ですので、その適切な選択を技術的にアドバイスするのは難しいわけですが、多様な方法がありますので、その経費も多様です。安くできるものもあれば高いものもある。その中から、費用対効果をどう評価するかは、非常に難しいです。
外壁改修と資産価値の関係について、自分の住んでいるマンションで経験したことがあります。外壁の塗装を塗りなおすのに約1億円、1戸当たり100万円かかるという見積でした。修繕積立金が5,000万円ありましたので、1戸当たり50万円ずつ追加で負担することになります。その是非について、管理組合が結論を出すのに2年かかりましたが、ここの立地できれいに塗り直すと資産価値が評価されて、高く売れるということを誰かが言ったことがきっかけになり、合意が進みました。
工事費用だけでなく、マンションがどれぐらいの価値になるのかを説明して、そのバランスを管理組合の方々が判断できるようにする、そのような情報を提供することは、管理組合が意思決定する上で重要だと思います。

【小林会長】

当然マンション居住者の多くの方、実社会のいろいろ経験を積まれているから、どういう修繕・改修を行うと、自分の持っている資産がどうなのか、おそらく指摘すればすぐわかる、そういう視点が重要だと思います。その点について、宮城さん、あるいは堀口さん、改修・改善に絡んで体験された点、おありでしたらお願いいたします。

【宮城】

そうですね。ほんとうに改修というようなジャンルでスケルトンリフォームを共用部は共用部として管理組合がやり、それにあわせて専有部分も個人が個人負担で中のスケルトンリフォームをやったマンションが実はあったんですけれども、大変マーケットとしての評価は高く、ほんとうに投資した以上の評価をいただいた実績がありました。
ただ、ここにきてちょっと残念にというか、我々自身の反省なんですけれども、耐震診断をして、耐震補強をしたマンションが必ずしもそうなっていない、むしろ評価が下がったという話が実はあります。端的に言えば1階のピロティーに鉄骨のブレースをどーんと入れる、バッテンを入れる、バルコニーの前にブレースを入れちゃったというようなことかなとは思っているんですけれども、やはりその辺がまだまだ日本の耐震補強の技術、特に計画の中で全然こなれてない、やはり金額的に安い、耐震性が上がりやすいというようなことに引っ張られてそれを選択していることがうまくいってない要素だなと思って、そこを何とか我々も組織として補強の設計の質の上げ方をほんとうに真剣に考えていかないとまずいんだなというふうに思っていますし、ですから、その経済的な評価というものはかなり大きな我々の指標の中でプライオリティーの高いところにあるんじゃないかなというふうには感じています。

【小林会長】

堀口さんにもお願いしたいと思います。

【堀口氏】

私も、具体的に申し上げますと、渋谷の案件ですけれども、40戸ぐらいの小さなマンション、40戸ですから一生懸命つくってもそんなに数が増えるわけじゃないんで、ディベロッパーがつかないような物件だったわけです。当初それを、依頼を受けたときは、依頼者側はもう年もとっているし、なかなか難しくてまとまらないかもしらんと言いながらご相談に来たんですけれども、現実にそこは借地権マンションでございましたが、返還率というのを計算してみると5割ぐらいにしかならないんです。ですから、現在の面積の5割ぐらいしか戻ってこない。ですから、50平米のお部屋で、都心、渋谷から歩いて5、6分ですからそんなものなんですが、50平米ぐらいのお部屋で同じ広さのお部屋をとろうとすると、やっぱり2,000万円ぐらいの負担になってしまう。
そういう提案をおそるおそるいたしましたところ、やっぱり新築になって、渋谷の駅から歩いて5、6分で2,000万円ぐらいで50平米の部屋が、新築の部屋が持てる、結局そこのマンションは誰も転出しませんでした。全員が残ったということがあります。ですから、やはり、いや実は建替え決議に反対した人も催告で参加しますと言ってきて、最後まで出て行かなかったというのは、やっぱりそれだけの価値が上がる、上がって、これは今手放しては損だなと、こう感じたんだと思います。

【小林会長】

戎さんにお話をお聞きしたいのですが、戎さんは先ほどマンションにかかわる多様性の議論をされていました。確かにそのとおりだと思いますが、実際に建替えにかかわっておられて多様性の中でこれが最もメーンの、重要な課題ではないかということをお気づきであれば何点かご指摘いただき、この点はぜひ押さえておくべきであるという点があれば、それもご指摘いただければと思います。

【戎氏】

どうして多様性が問題になるかというと、それはマンションの再生というものが法的に整理されてないからなんです。まず、多種多様なマンションの形のうち幾つかの形でしか許されない形がある、そういうことがまず大前提にあるからこそ最初にマンションの形とかを把握しないといけない。それから、メニューとしてもそうなんですけれども、例えば減築のような大規模改修については法的な手当が全くありません。全員合意が必要で5分の4以上でも4分の3以上でもできないとされています。性質上「共用部分の変更」を越えるし、建替えでもなく、かつ専有部分の除却を含みますので全員合意でないとできない。要するに、法制度の壁のために再生の選択肢が狭められてしまっているというのが再生をめぐる現在の法的状況なんですね。高経年マンションがどんどん増えていく中で、再生のためのメニューの多様性を高めること、法的に様々な再生が決められるような法律面の整備が喫緊の課題だと思います。
それと、もう一つは紛争ということに関わるところですけれども、もう一つ大事なのは合意形成の確実性、具体的には決議の法的安定性です。つまり、一度決まったらそれが容易に覆ったりはしないという仕組みを合わせて整理することが重要です。皆さんで苦労して決めたのに、何かのことで、すぐひっくり返ってしまうというのは大変につらい。現場に入れば入るほど法的安定性の重要性を感じます。

【小林会長】

今のお話で、法制度の壁の議論があって、先ほど紹介ありました区分所有関係の解消も一つなのですね。今回の区分所有法改正で壁を若干ですけど、壊したんですが、これは一般化すると結構大きい意味を持つ可能性があると思いますが……。

【戎氏】

区分所有法の改正としてではなく、被災マンション法(被災区分所有建物の再建等に関する特別処置法)の改正として、区分所有関係の解消とその後の売却を5分の4以上の決議で決定できるという改正です。大規模一部滅失(建物価格の2分の1を超える一部滅失)の状態になったマンションでしか許されないんです。しかし、よく考えますと、建替えも計画化が難しいマンションはたくさんあります。特に容積率等の関係で、公法上の条件から建替え計画の立案自体が不可能もしくは著しく困難である、あるいは立地その他の条件のために事業化が不可能もしくは著しく困難である(ディベロッパーが入ってこない)ため、建替えは断念せざるを得ない、しかし、かといって、このまま修繕維持していくといっても限界がある。そのような場合の再生の一つの選択肢として被災マンションではないマンションでも区分所有関係の解消という決断で新しい世界に行くということもあり得るかなと思います。それは、今のところは全員同意でなければできません(抵当権や利用権との調整も必要です)が、私もずっと一般的な解消制度が必要だと言い続けてはいるんですけれども、限定的ではありますが解消制度が導入されたということ自体は進歩だといえるでしょう。次のこと(建替え)を決めずに関係の解消のみを認める、全員でなければ許されないはずの共有物分割を決議で可能にしたということは民事法的にはすごいことなんで、この発想をさらに拡大して、解消制度をマンション再生一般の選択肢としてぜひ取り入れていくべきだと考えています。

【小林会長】

はい。ありがとうございます。

【堀口氏】

ちょっとよろしいですか。

【小林会長】

はい、どうぞ。

【堀口氏】

また実務の面から一つご紹介したいんですが、これも、渋谷駅から2、3分という国道246号線に面した案件なんですが、246に面する北側だけしか窓がとれないような場所、これは決して住宅に向いているとは思えません。ですけれども、マンションという以上は、マンションをつくらなきゃいけない。ほんとうであれば、例えば商業施設に全館するとか、そういうほうが再有効利用になるんです。
そうすると、従前資産の評価も上がるはずなんです。それを無理やりマンションの建替えだからマンションをつくらなければならないということになると、再有効利用じゃないものをつくるということになってしまいます。私はほんとうに、そういう壁を解消できるのであれば、そのほうが、より高い価格で売って、自分はそれを持ってどこかほかのところに住宅を構えるなりしたほうがよっぽど経済的であろうなという事例がございます。

【小林会長】

幾つか法制度の壁があるのでしょうけれども、それを徐々に解消していくということも必要かと思います。私が以前経験した法制審議会の議論ですとなかなか大変だなと深く思っておりますが、いつの日かやはり法制度の壁を少しずつなくしていく必要があるだろうと思っております。
そろそろ時間になっておりますが、最後に先ほど戎さんがマンションの建替え、改善・改修には、さまざまな多様な知識が必要で、スーパーマンが必要であるとのお話がありました。ただ、おそらく一人の人にスーパーマンを期待して育成するということはあまり現実的ではないので、実際のさまざまな情報を身につけ、マンション建替え、改善・改修に発揮できるシステム、人を介したシステムがぜひ必要ではないかと思っておりますが、その点について、現実的にどういうことを考えたらいいか、まず言い出しっぺの戎さんから先にお話いただけたら。その後、皆さんから簡単にお願いいたします。

【戎氏】

人材育成ということに関しては、第一に、現場での育成が大事だということ、第二に、スーパーマンは容易に作れないということ、この2つがポイントだと思います。まず、現場育成ですけれども、前提として、先ほど学校教育の話も出ましたが、実はマンションは非常に学際的な存在だと思うんですね。団地型マンションなんていうのはまさに公法と私法の両方の要素を持った法的実在ですし、その再生となれば、評価の専門家も要るし、税の専門家も要るし、もちろん建築、都市計画など様々な専門家が必要です。ところが、団地というものが学際的にこれまで取り上げてきたことはほとんどありません。そもそも都市計画関連法規は工学部の授業ではかなり教えていると思いますが、法学部ではまともに教えていません。民法や区分所有法などの私法はその逆でしょう。両方の知識が前提としてやっぱり必要なんです。ですから、これからは、学際的にまずマンションのことも勉強できるような体制が現場での実践的な訓練の前提として必要なんじゃないかなと思います。
それから、現場で鍛えようと思ったら、マンションと専門家とのすり合わせというか、出会いの場をつくる必要もあると思います。そこで、例えば、行政のアドバイザー派遣やコンサルタント派遣という制度もありますが、区分所有者の皆さんがマンションの再生を検討しようとされる場合には、それらの制度を使ってでも、必ず専門家が入っていって、そこからスタートをするというような仕組みをまず作り上げるようなことが考えられるのではないかと思います。
最後に、専門家について一人を前提としていますが、スーパーマンはなかなかいません。となると、「三人寄れば文殊の知恵」じゃないですけれども、専門家チームということを考えたらどうかなと思うんです。マンションの再生はオペラのような総合芸術的で様々な分野の協力が必要な分野ですから、一人だけだと難しい場合も少なくないでしょう。そこで、チームで関われるような仕組みも必要なのではないでしょうか。例えば、コンサルタントなど派遣制度にアドバイザーチームやコンサルタントチーム制を取り入れてみるとか、そういった仕組みを専門家の側も作る必要があると思いますし、これをさらに側面から支援する行政の派遣制度のようなものと組み合わせて整備すればより良い支援制度ができるのではないかなと思います。

【小林会長】

ありがとうございます。時間もございますので、簡単にお一人ずつ、堀口さん。

【堀口氏】

私も、チームでやることが一番重要だと思っております。私自身は生意気なようなんですが、事業を最初から最後まで見ないと気が済まないほうでございますので、再開発事業もそうです、自治体がやる基本計画から始まって、最後の清算までというのでずーっとやってきてまいりました。
そういう意味から広く浅くというか、そういう形で事業と接しております。ですから、私自身はそういう意味では、コンサルタントというよりもコーディネーターなんだと思っております。当然のこととしてそれでは、私一人では何でもかんでもできるわけではないですから、専門のコンサルタントの方々とチームを組んでやっていくというのがやはり理想だと思っています。

【小林会長】

ありがとうございます。

【宮城】

やはり委員会に的確な人材を配置してプロジェクトチームをつくるかというところが大きなポイントだと思いますし、やはり人それぞれ得手不得手もあって、チームの中での相性みたいなところも大きな要素であったり、またクライアントの方との相性みたいなところも相当、この人とはあそこうまくマッチしたなみたいな、うまくフィットしたところがうまく進んでいく、転がっていくということがありますので、その辺は何かうまく臨機応変にちょっとキャッチボールをしながら次のチームを当てるみたいな、そういったやわらかさも必要じゃないかなと思っています。

【南氏】

私は管理組合と専門家をうまくつないでくれるコーディネーター的な専門家が必要だと思います。例えば、屋根防水工事の修繕の専門家はいますし、外装タイルの張替え工事の専門家もいます。しかしマンションの建物としての特性や、管理組合の考え方に基づいて、どういう専門家に、どういうことを相談したらいいのかについて、整理してうまくつないでくれる、コーディネーター的な専門家が求められていると思います。
修繕・改修工事を検討するとき、管理組合は、いきなり専門家と話を始めません。最初に話すのは日ごろお世話になっている管理会社の営業の方です。その方々は、非常に仕事熱心で、居住者の信頼も得ておられますが、技術的なことは専門ではないので、あまり詳しくはないようです。したがって管理会社として職員の方の研修を充実していただけないかと思っています。管理会社が適切な情報を提供できるようになると、管理組合の理事さんたちの悩みも少し減るのではないかと思います。

【小林会長】

最後に具体的な提案がございまして、提案に関わる関係者も会場におられるのではないかと思います。今日、多様なご意見を四人の先生方からいただきましたが、結論は最後のほうにそれぞれの先生方のお話の中に込められていたと思いますので、あえて私のほうからまとめはいたしません。
これで、シンポジウムを終わらせていただきたいと思います。改めて四人のパネリストの方に拍手をお願いします。(拍手)ありがとうございました。

【司会】

貴重なご議論どうもありがとうございました。
以上をもちまして、平成25年度マンション再生協議会のシンポジウムを終わらせていただきます。